【レポート】
メディアアクセシビリティとIPTVシンポジウム

メディア・アクセシビリティとIPTVシンポジウム

コンソーシアムの一課題として検討してきたIPTVアクセシビリティプロファイルが 国際電気通信連合(ITU-T)の国際標準化規格として承認されたことを記念し、 本国際規格の紹介を行うとともに、情報アクセシビリティの課題や 本コンソーシアムの活動について広く議論を行うため、 2015年12月、メディア・アクセシビリティとIPTVシンポジウムを開催いたしました。

日時
2015年12月4日10:00~17:30
場所
一般社団法人情報通信技術委員会(TTC) 2階 C会議室
東京都港区芝公園1-1-12 芝公園電気ビル

IPTV を使った字幕付与

福島 孝博 /追手門学院大学

現在、テレビ放送の字幕は、字幕情報がある場合も、ほとんどがクローズドキャプションで放送されており、デジタル放送に移行した現在も、アナログ時代の規格である NAB規格を置き換えたものが圧倒的に多いのが現状です。1行に表示できる文字数は限られて おり、文字の大きさも変更はできません。

IPTV による字幕付与では、機能により三段階に区分されており、ユーザーのニーズに対応した字幕表示が可能です。「大きな文字で見たい」「読みやすいように背景色を濃い色にしたい」「文字の入る場所を変えたい」など、ユーザーの好みのスタイルで字幕情報が 見られる“ 究極のマイ字幕 ”が可能となります。 また、複数言語の切替も、東京オリンピックなど、国際的なイベントでの需要が見込まれ る多言語字幕付与にも、ユーザーのニーズに合わせて容易に行えるようになります。

ITU で検討されている IPTV によるアクセシビリティ

川森 雅仁 /慶應義塾大学

ITU では、情報を求める全ての人が容易に情報を得られるように、アクセシビリティを強力に推進しており、IPTVコンソーシアムでは、障害者の方々から実際にお話をうかがいながら、情報を得る際に日常的に発生している問題を、一つひとつ解決するためのプロファイルを作成し てきました。2015年11月28日、H.702が国際標準となったことで、製品を作る企業は開発、 参入が容易になり安価で製品を提供できるようになり、それによって今まで情報を得ることが できなかった世界中の人々が、容易にアクセシブルサービスを享受できるようになることでニー ズもさらに増えることでしょう。

日本ではすでにIPTVを利用することができるテレビが 2000万台出荷されており、アクセシビリティは決める段階から、実際に使う段階になっています。IPTVを利用することでアクセシビ リティはよりパーソナルなサービスとなり、当たり前に使えるようになります。それは遠い未来の話ではなく、今すでにある製品と技術で今すぐにできるのです。

ASTAPでのIPTVアクセシビリティへの取り組み

山本 秀樹 /沖電気工業株式会社

アジア太平洋電気通信標準化機関ASTAPでは、 40億の人口を持ち、開発途上国も多い、これから最も発展するエリアであるアジア太平洋地域内の標準化において、各国の協調体制を構築しながら国際標準化に貢献しています。日本の北海道をはじめ、世界中にIPTVサーバーが置かれており、学術ネットワークを使って、いろいろな国でIPTVを試したい人に向けてサービスを 提供しています。

2013年2月さっぽろ雪まつりの模様を、フィリピン、ジュネーブに8MbpsのIPTV配信を行った際、同時に行った字幕配信の実験をベースに、国際標準規格H.702が生まれました。その他、モバイル端末のアクセシビリティの向上や、アクセシビリティの視点から、障害者の方々、発展途上国に住む情報弱者の方々にも、使い方、運用が容易なIPTVを使って情報伝達サー ビスを享受いただけるように、アジア地域での課題を検討しながら標準化の取り組みを行っています。

IPTVアクセシビリティコンソーシアムの活動

大嶋 雄三 /IPTVアクセシビリティコンソーシアム

阪神淡路大震災、東海村臨界事故、東日本大震災では、障害者の方々が、刻々と変わる事態の状況について情報を得ることができず、避難ができなかったり、不幸にもお亡くなりになる事例もありました。そうした不幸な事例を繰り返さないために、1998年放送を開始した「目で聴くテレビ」での取り組みをはじめ、字幕、手話、音声解説を付与した放送のバリアフリー化を目指して、様々な取り組みを行っています。現在のデジタル放送では実現できない問題も、IPTVを使えば、放送局は大きな設備投資をすることなく、視聴者は現在使っているテレビのリモコンを使って、実現することが可能です。

本コンソーシアムでは、日々高まる障害者、高齢者のアクセシビリティ向上への要求に応える、技術とコンテンツ作成を開発、研究しています。

聴覚障害者の要望

一般財団法人 全日本ろうあ連盟 理事 小椋 武夫

IPTVによって、従来は不可能だった手話のオンオフをはじめ、さまざまなアクセシビリティの向上と、それに伴って字幕や手話の認知の向上を期待しています。

視覚障害者の要望

社会福祉法人 日本盲人会連合 情報部長 工藤 正一

老人になると誰もが見えづらくなります。IPTV は目からの情報だけでない、テレビ視聴の可能性を広げるものだと思います。

知的障害者の要望

全国育成会連合会 本人活動委員会 委員長 小尾 隆一

複数の字幕、音声解説に期待します。IPTVは通常の字幕、音声解説では理解できない知的障害者や認知症の方、誰もがわかやすい情報提供ができるのではないでしょうか。